レンサ球菌感染症と腸球菌感染症: グラム陽性球菌: メルクマニュアル18版 日本語版
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(グラム陽性球菌: 肺炎球菌感染症,リウマチ熱,口腔咽頭疾患: 扁桃咽頭炎を参照 。)
レンサ球菌はグラム陽性好気性菌であり,咽頭炎,肺炎,創傷および皮膚感染症,敗血症,および心内膜炎など多くの疾患を引き起こす。症状は感染臓器により異なる。続発症にリウマチ熱および糸球体腎炎がある。臨床的診断はグラム染色および培養により確定する。ほとんどの菌株はペニシリン感受性であるが,多剤耐性の可能性のある腸球菌は例外である。最近ではエリスロマイシン耐性株が出現している。
異なる3種類のレンサ球菌は,まず羊血液寒天培地で増殖したコロニーの外観により鑑別する。β溶血性レンサ球菌は各々のコロニーの周囲に鮮明な溶血環を生じ,α溶血性レンサ球菌(ビリダンス群レンサ球菌を含む)は不完全な溶血に起因する緑色の変色に囲まれ,γ溶血性レンサ球菌は非溶血性である。次に細胞壁に存在する糖質に基づく分類法により,レンサ球菌をランスフィールドの類A群〜H群およびK群〜T群に分ける( グラム陽性球菌: レンサ球菌の分類表 2: 参照)。ビリダンス群レンサ球菌は分類が困難な独自のグループを形成する。ランスフィールド分類では,腸球菌は当初D群レンサ球菌に含まれていたが, 最近になって別の属に分類されている。
表 2 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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多くのレンサ球菌がストレプトリジン,デオキシリボヌクレアーゼ,およびヒアルロニダーゼなど,組織破壊および感染拡大に寄与する病原因子を産生する。数種類の菌株は特定のT細胞を活性化させる外毒素を放出し,腫瘍壊死因子TNF-α,インターロイキン,および他の免疫調節薬といったサイトカインの放出を誘発することにより,補体系,凝固線溶系を活性化させ,ショックから臓器不全を引き起こし,死に至る。
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レンサ球菌属のうち最も重要な菌種は化膿レンサ球菌であり,β溶血性でランスフィールド分類A群に属することから,A群β溶血性レンサ球菌(GABHS)と表現される。GABHSに起因する2大急性疾患は咽頭炎および皮膚感染症であり,さらに遅発性の非化膿性合併症(リウマチ熱および急性糸球体腎炎)が,ときに感染後2週間以上経過してから発現する。他の種のレンサ球菌に起因する疾患はあまりみられず,通常は軟部組織の感染症または心内膜炎である(グラム陽性球菌: レンサ球菌の分類表 2: 参照)。一部の非GABHS性感染症はとくにある特定の集団において発生する(例,新生児および分娩後の女性におけるB群レンサ球菌,ならびに入院患者における腸球菌)。
感染は,侵された組織を通じて,あるいはリンパ管に沿って所属リンパ節へ広がる。これらは,扁桃周囲膿瘍,中耳炎,副鼻腔炎,および菌血症などの限局性化膿性合併症を起こすこともある。化膿は感染の重症度および組織の感受性に左右される。
レンサ球菌性咽頭炎は通常GABHSが原因である。患者の約20%に,咽頭痛,発熱,咽頭の強い発赤(beefy red),化膿した扁桃の滲出がみられる。残りは著明な症状を示さず,臨床所見はウイルス性咽頭炎に類似する。頸部および下顎リンパ節が肥大し,圧痛を呈することがある。レンサ球菌性咽頭炎は扁桃周囲膿瘍を引き起こすことがある(口腔咽頭疾患: 扁桃周囲膿瘍および蜂巣炎を参照 )。咳,喉頭炎,鼻づまりなどの症状はレンサ球菌性咽頭感染症に特徴的ではなく,別の原因(通常はウイルス性またはアレルギー性)によることもある。無症候性キャリア状態が20%も存在しうる。
猩紅熱は現在まれである。猩紅熱は発赤毒素を産生するA群レンサ球菌(およびときに別のレンサ球菌)株に起因し,圧迫により白くなるびまん性の淡紅色の皮膚紅潮を呈する。発疹は腹部または胸部側面に,皮膚のひだにおける暗赤色の線として(パスティア線),あるいは口囲蒼白として最もよくみられる。また,いちご舌(炎症を起こした舌乳頭が明赤色の被膜から突出している)も生じるため,毒素性ショック症候群(グラム陽性球菌: 毒素性ショック症候群を参照 )および川崎病(乳幼児および小児におけるその他の疾患: 川崎病を参照 )で認められるものと鑑別しなければならない。熱がおさまった後に,発赤していた皮膚の上層がしばしば落屑する。その他の症状はレンサ球菌性咽頭炎の症状と類似し,猩紅熱の経過および対処法は他のA群感染症と同じである。
皮膚感染症には膿痂疹(細菌性皮膚感染症: 膿痂疹および膿瘡を参照 )および蜂巣炎(細菌性皮膚感染症: 蜂巣炎を参照 )がある。蜂巣炎は,主としてA群レンサ球菌が産生する多くの細胞溶解酵素および毒素により,急速に拡大することがある。丹毒((細菌性皮膚感染症: 丹毒を参照 )はレンサ球菌性蜂巣炎の特殊な型である。
化膿レンサ球菌による壊死性筋膜炎は重度の皮膚(またはまれに筋肉)感染症で,筋膜表面に沿って広がる(細菌性皮膚感染症: 壊死性皮下感染を参照 )。大腸憩室または虫垂膿瘍に伴う場合のように,その播種は皮膚または腸を通じて起こり,その損傷は外科的であったり軽度であったり,疾患部位から離れていたり,あるいは潜在性であったりする。それは静注薬物乱用者の間に広がっている。以前はレンサ球菌性壊疽として知られ俗に"人喰いバクテリア"と言われる同じ症候群も複数菌性であり,clostridium perfringensを含めた好気性および嫌気性菌叢群が関与する。会陰部に発生するときはフルニエ壊疽と呼ばれる。免疫障害,糖尿病,およびアルコール中毒などに合併することが多い。症状は発熱と激しい限局性疼痛で始まる。微小血管の血栓症が虚血性壊死の原因となり,急速な拡大とかなり重度の中毒症状を起こす。症例の約20〜40%で近接する筋への浸潤がある。ショックおよび腎機能障害がよくみられる。治療を行っても死亡率は高い。
レンサ球菌による敗血症,産褥敗血症,心内膜炎および肺炎のうち,特に原因菌が多剤耐性腸球菌ならば特に重大な問題となる。
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レンサ球菌性毒素性ショック症候群(グラム陽性球菌: 毒素性ショック症候群を参照 )は黄色ブドウ球菌を原因とするものに類似し,GABHSの毒素産生株に起因することがある。患者は通常,もともと健康な小児または成人であり,皮膚および軟部組織の感染症を伴う。
遅発性合併症: 特定のGABHS菌株が遅発性合併症を起こす機序は不明であるが,宿主組織に対するレンサ球菌抗体の交差反応が関与すると思われる。
炎症性疾患であるリウマチ熱(リウマチ熱を参照 )は,未治療のGABHS性上気道感染症の数週間後に,患者の3%未満において発生する。抗生物質出現以前に比べるとリウマチ熱の発生は今日ではかなり少なくなった。診断は関節炎,心炎,舞踏病,特異的皮膚症状,および臨床検査を組み合わせて行う。レンサ球菌咽喉炎を治療する最も重要な根拠は,リウマチ熱の予防である。
レンサ球菌感染後の急性糸球体腎炎(糸球体疾患: 急速進行性糸球体腎炎を参照 )は,ある種の腎毒性GABHS株による咽頭炎または皮膚感染症に続発する急性腎炎症候群である。この続発症は限られたA群レンサ球菌血清型の菌による感染症に続くものである。この菌による咽頭または皮膚感染後の全体発病率はおよそ10〜15%で,小児で最も多く,感染から1〜3週間後に発現する。ほぼ全ての小児および全てとはいえないが成人も,永久的腎障害を残さずに回復する。GABHS感染に対する抗生物質治療は,糸球体腎炎の発現に対しては有効性が低い。
診断
レンサ球菌は羊血液寒天平板を用いた培養で迅速に同定できる。咽頭のスワブから直接GABHSを検出できる迅速抗原検出検査が利用できる。多くの検査は酵素免疫法に基づいているが,ごく最近では光学的免疫測定法を利用した検査が可能になっている。それらの特異度は高いが(95%を超える),感度には著しく幅がある(新しい光学的免疫測定法で55%から80〜90%)。陰性結果は培養により確定すべきである(マクロライドを検討するなら,耐性の可能性があるため特に確定を要する)。
回復期中に血清中の抗レンサ球菌抗体を証明することにより,感染の証拠が間接的に得られる。抗体は,リウマチ熱および糸球体腎炎などのレンサ球菌感染後疾患の診断に最も有用である。長期間の先行感染により1回の抗体価が高値となることがあるため,確定のためには連続採取した試料により抗体価の上昇を示す必要がある。血清試料は2週毎よりも頻繁に採取する必要はなく,2カ月毎の採取でもよい。抗体価の有意な上昇(または低下)は連続希釈の少なくとも2段階に及ぶべきである。抗ストレプトリジンO(ASO)抗体価は感染の75〜80%においてのみ上昇する。診断困難な症例では正確を期するために,他のテスト(抗ヒアルロニダーゼ,抗デオキシリボヌクレアーゼB,抗ニコチンアミドアデニンジヌクレオチダーゼ,または抗スト レプトキナーゼ)のいずれかをも使用する。症候性レンサ球菌咽頭炎に対して最初の5日以内に投与されたペニシリンは,ASO反応の出現を遅延させたり程度を低下させたりすることがある。通常,レンサ球菌膿皮症患者は有意なASO反応を示さないが,他の抗原(すなわち,抗デオキシリボヌクレアーゼまたは抗ヒルロニダーゼ)に対し反応することがある。
治療
咽頭炎: 猩紅熱を含むGABHS咽頭感染は,通常は自己限定性である。抗生物質は幼児,特に猩紅熱の幼児における経過を短縮するが,青少年や大人の症状に対する効果は中程度にすぎない。しかしながら,それらは限局性化膿性合併症およびリウマチ熱の予防に役立つ。
ペニシリンが最適薬である。ベンザチンペニシリンGの筋肉内単回注射,乳幼児(体重27.3kg未満)に600,000単位,青少年および成人に120万単位で通常は十分である。患者が10日間のレジメンを守ると信頼できる場合には,経口ペニシリンVを用いてもよい;500mgのペニシリンVを1日2回または1日3回(27kg未満の小児には250mg)。経口セファロスポリン系が有効である。セフジニル,セフポドキシム,およびアジスロマイシンは5日間の治療クールとして使用できる。臨床検査による確定まで1〜2日間治療が遅延しても,疾患の持続期間の延長も合併症の発生率増加ももたらさない。
ペニシリンまたはβラクタムが禁忌である場合,エリスロマイシン250mg,経口,1日4回,またはクリンダマイシン300mg,経口,1日3回,10日間投与することがあるが,GABHSのマクロライド系耐性が検出されている(一部の専門家は,マクロライドを使用する予定であるか,地域的にマクロライド耐性の可能性があるならば,in vitroにおける感受性の確認を推奨している)。TMP-SMX,一部のフルオロキノロン系,およびテトラサイクリン系は信頼性に欠ける。慢性扁桃炎が再燃した小児にはクリンダマイシン(5mg/kg,経口,1日4回)が望ましいが,それはおそらく扁桃陰窩に同時感染してペニシリンGを不活性化するペニシリナーゼ産生ブドウ球菌または嫌気性菌に対してこの薬が良好な活性を有するためである。クリンダマイシンも他の薬物よりも迅速に外毒素の産生を抑えるようである。
咽頭痛,頭痛,発熱は,鎮痛薬や解熱薬で治療できる。就床安静や隔離の必要はない。症候性またはレンサ球菌感染後合併症の既往を有する密接な接触者は,レンサ球菌検査を受けるべきである。
皮膚感染症: 蜂巣炎は,細菌の分離が困難であることから,しばしば培養を行わずに治療される。したがって,レンサ球菌およびブドウ球菌の両方に有効なレジメンが使用される(細菌性皮膚感染症: 予後と治療を参照 )。壊死性筋膜炎の患者はICUで治療すべきである。広範な(おそらく反復的な)外科的壊死組織切除が必要である。推奨される初期の抗生物質レジメンは,βラクタム(培養により病因が確定するまでは,しばしば広域スペクトルの薬物)にクリンダマイシンを加えるものである。レンサ球菌は依然としてβラクタム系抗生物質感受性であるが,動物試験においては,レンサ球菌が迅速発育性ではないことから,感染菌量が大きい場合にはペニシリンが必ずしも有効ではないことが示されている。
他のレンサ球菌感染症: B,C,およびG群感染に対する選択薬はペニシリン,アンピシリン,またはバンコマイシンである。セファロスポリン系またはマクロライド系は一般に有効であるが,特に重症疾患,免疫不全,または衰弱した宿主,および感染部位に異物を有する患者においては,感受性試験に基づいて治療すべきである。創傷の外科的排膿および壊死組織切除による抗菌薬療法の補助は救命的である。
S. bovisは抗生物質に対し相対的には感受性を示す。最近,バンコマイシン耐性 S. bovis分離株が報告されているが,この菌は依然としてペニシリンおよびアミノ配糖体系に対して感受性である。
ほとんどのビリダンス型レンサ球菌は,しばしばペニシリンGおよび他のβラクタム系に感受性である。耐性が増大しつつあり,こうした菌株に対する治療はin vitroの感受性試験結果により決定すべきである。
腸球菌感染症
Enterococcus faecalisおよびE. faeciumは菌血症とともに心内膜炎,尿路感染症,腹腔内感染,蜂巣炎,および創傷感染を引き起こす。重篤な感染症に関連する腸球菌は,ペニシリン,アンピシリン,またはバンコマイシンのような細胞壁活性をもつ薬物とゲンタマイシンまたはストレプトマイシンなどのアミノ配糖体とを併用しない限り根絶は難しい。
バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)はアミノ配糖体系,細胞壁活性をもつβラクタム系(ペニシリンGおよびアンピシリンなど),および他のグリコペプチド系(テイコプラニンなど)にも耐性のことがある。菌種が確定されたときは厳密な隔離処置を実施するべきである。推奨される治療はストレプトグラミン系(キヌプリスチンとダルフォプリスチンの併用)およびオキサゾリジノン系(リネゾリド)である。
最終改訂月 2005年11月
最終更新月 2005年11月
1 コメント:
nice post..
Adelina
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Via : Strep Throat Symptoms
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